#対談

スマホ依存から抜け出すヒントは、スマホを使わない時間の過ごし方にあり

2024.02.20

スマホ依存は深刻な問題です。スマホ依存の症状として、常にスマホをチェックすることが止められなくなることや、スマホを見ながら眠ることなどが挙げられます。スマホを何時間も使用することにより、生活リズムが乱れたり、成績が下がったりするなどの問題が起こりながらも、「スマホなしでは生きられない」と自覚する若者は多いようです。

そこで、京都橘大学 総合心理学部 総合心理学科 准教授の岸太一さんをゲストに迎え、アデッソ 代表取締役の長谷川大悟、副社長の長谷川賢悟、モデレーターの佐藤と「現代のスマホ依存」について話し合います。

「スマホ依存」と「アディクション」

佐藤:そもそも「スマホ依存」とは、どのような状態のことをいうのでしょうか。

岸:スマホ依存は「スマートフォンの使用を続けることで昼夜逆転したり、成績が著しく下がったりするなど、さまざまな問題が起きているにも関わらず、使用がやめられず、スマートフォンが使用できない状況が続くと、イライラし落ち着かなくなるなど精神的に依存してしまう状態」と定義されています。

特に中高生はスマホ依存により、夜眠れなくなり、翌日の学校に遅刻してしまうケースは珍しくありません。小児眼科の先生によると、最近はスマホの画面を長時間見ることで、近視が進んでいる子供が多いようです。

長谷川賢悟(以下、賢悟):スマホに支配されることで、友達や家族との時間や読書など、普段できることができなくなってしまう恐れはありますよね。

岸太一(以下、岸):その可能性は十分にあります。自分の意思で行動のコントロールができなくなることを「アディクション(嗜癖)」と呼びますが、スマホ依存の場合、スマホが自分の生活の中心になっているんですね。

例えばスマホを見ながら食事をとるとか……。1人での食事ならまだしも、家族と一緒に食事をしている時にスマホを見ながらだと、会話も十分にできないと思います。

佐藤:私の個人的な話をすると、テレビで映画を見る時にスマホが近くにあると、やっぱり通知が来ていないか気になってしまいます。1人の時はまだしも、家族や友人といる時にスマホばかりに気を取られてしまうケースも珍しくないので、スマホはそれほどの引力があるのだと思ったんですね。

岸:極端な言い方をすると、日常生活が十分に満たされている人はアディクションに陥らない傾向にあります。アディクションは、嫌な状態から逃れるために依存対象の方向に向かうという特徴があります。

なので、スマホ依存の人がスマホを見ていてものすごく楽しいかというと、意外とそうでもないんですね。ただ、嫌なことがあってYoutubeを見たりゲームをしたりすると、惰性でスマホを見続けることになります。なので、本人にはスマホを使わないという選択肢が0になるのです。

無理なくスマホを遠ざけるには

佐藤:なので個人的には、スマホを寝室に持ち込まず、代わりに時計のアラームを使用することが大切なのかなと思います。

岸:それが習慣化すると良いと思います。例えば、不眠症で悩まされる多くの人は、寝るための準備がバラバラであるケースが多いです。なので、寝る前のルーティンとして、スマホを寝室に持ち込まないなど、できることはアディクションの解消あるいは予防につながると思います。

佐藤:ある意味、文化をつくるのに近いニュアンスだと感じました。ただ、スマホを寝室に持ち込まないというルールを決めたとしても、スマホを手に取るという選択肢が出てしまうとスマホ依存から抜け出すのは難しい気がします。いかにして日常生活に溶け込ませるかが課題になると思うのですが、岸さんはどのようにお考えでしょうか。

岸:ここで事例を紹介すると、禁煙すると太るといわれているのは、口への刺激がなくなることが関係している可能性があります。誰からも指摘されないもので気軽に口に入れられるという理由で飴を口にし、結果的に糖分摂取により太っていくという因果関係があります。

また、タバコを辞めると1時間ほど早く仕事が終わるんですね。非喫煙者ならその1時間を有効活用して別の仕事をしたりするものの、喫煙者からすると働かされているという感覚に陥る傾向があります。

なので、依存対象のものから離れた時に手持ち無沙汰な感覚があると、そこに戻ってきてしまうリスクがあるということです。スマホも同じように、スマホを触っていない時の過ごし方がイメージできなければ、何もしない時間として苦痛に感じるでしょう。

依存から抜け出すには強制力が必要?

 佐藤:大人は自分の意識で行動できる側面がある一方で、子供とスマホを切り離すのは結構大変な気がします。それこそ、強制力が必要になるのかなと思ったのですが。

岸:子供は大人と違い、これがずっと続いたらどうなるかという予測をして、それなら我慢した方が良いと理解するのは難しいですよね。そういう意味では、多少我慢を覚えてもらうやり方もあるのかもしれません。

長谷川大悟(以下、大悟):ゲームのように1つの機器において1つの機能で完結しているのとは違い、スマホは誰と不特定多数の人とつながれたり、永遠と関連動画が流れてきたりすることで、子供はハマりやすくなっているのかなと。

子供は新しいことを習得するのが早いので、親がコントロールしなければならない一方で、なかなかずっとは見てられない場合もあります。なので、家族の約束として、スマホを使用する時間を制限する方が現実的な気がします。

佐藤:その時間だけは息止めて頑張るぞ……みたいになってくれれば良いですよね。

岸:心理学の行動分析学では、除外訓練というものがあります。これは「罰」との区別がわかりにくいところがあるのですが、例えば「宿題が終わるまではスマホを親が預かる(宿題が終わったらスマホを渡す)」ということを徹底できれば、やがて我慢ができるようになるかと思います。

佐藤:それは本質的に依存から抜け出すことになるのでしょうか。

岸:本質的に…となるといろいろと考えないといけないことがありますが、摂食障害の治療はこのパターンでやりますね。食べないことを叱ると食べない言い訳を考えてしまったり、食べ物を隠してしまったりする可能性があるので、「ご飯食べなかったら好きなテレビが見られない」のような除外訓練を実践することが多いです。

賢悟:それをすることによって、ご褒美がもらえるということですか。

岸:我慢する時間が明確に分かることで、耐えられるという側面はあると思います。極端な話かもしれませんが、とある研究では、がん患者さんの中でも「孫の結婚式までは頑張る」のような区切りがあることで、頑張れるという報告がされました。

話は戻りますが、子供の場合だと褒めてもらえるから頑張れるという人もいます。「使用禁止にしたから、スマホに触れないのは当たり前」ではなく、「その間に勉強や読書をしてえらい」と褒めてあげるのが大切です。

学生のスマホとの向き合い方

大悟:大学生のスマホとの向き合い方についても知りたいのですが、授業ではスマホの使用は許可していますか?

岸:コロナ禍で授業がオンデマンドやzoomやteamsなどを使ったオンライン授業となっていたこともあり、今の学生の大半は端末なしで授業を受けることをあまり想定していないかもしれません。私の授業でも、スマホを使って小テストを受けてもらったり、Teamsで見た動画の感想を送ってもらったり、授業内でスマホを使用するシーンは多いです。

逆にスマホを使わないシーンで端末を机に置いていたとしても、特に問題ではありません。講義を聞いて、わからない内容をメモして調べられるのはスマホならではの利点でもあるので。一瞬、授業と関係のない事柄を調べたり、ついつい動画サイトで動画を見たりするというデメリットもありますが、学生の自律性で制御してもらえたらと思っています。

佐藤:スマホを見る必要がない時には見ないと、そこで意思決定する環境を作るんですね。逆にスマホをいかに上手く使うかの方が依存から抜け出す解決策として正しいのでしょうか。

岸:そういう方向からのアプローチもあり得ると思います。ただ、年齢や状況によってはスマホは色々な場面で使えるので、ある程度強制的にスマホを使わないという選択肢はあって良いのかなと。タバコがどうしてやめにくいかというと、もちろん依存性の高さはあるのですが、場面が限定されないんですよね。こういう時にタバコを吸って、こういう時に吸わないという状況が明確に区別できない側面がタバコにはあります。

スマホもそういう面があると思うので、スマホを使わない・使えない状況を作ることが必要な人もいると思います。とはいっても、やはり現代社会でスマホを全く使わないで日々を過ごす、ということは難しいと思うんですね。

近年、アディクション対策として「ハームリダクション」というものが登場しています。例えば、お酒なら禁酒をするということではなくて、飲酒によって生じる害を減らそうというものです。スマホを全く使わないということが現実的な選択ではないことを考えると、ハームリダクションの考えに基づいた関わりが大事になってくるかもしれません。

佐藤:依存対象から離れた時に何かリフレッシュできることがあれば、もしかしたら良いのかもしれませんね。とても興味深い話をありがとうございます。

大悟:人間の心理からスマホ依存について考えていくのは興味深いです。スマホだけでなくタバコ依存の場合もそうですが、「オフ」である状態の時に何があるのかということが大切だとわかりました。

賢悟:同じく除外訓練の話で出てきた、ご褒美を与えるという側面からも今後の取り組みを考えていけたらと思います。