Himekuri #対談

認知症と時計の可能性を考える。デジタルの力で介護をスムーズに安心に

2023.10.04

日本は世界有数の長寿国として知られています。しかし、高齢になるにしたがって認知症の発症リスクも高まることも忘れてはなりません。多くの人が認知症介護を余儀なくされている現状で、認知症とどのように向き合うかが課題となります。

ブロガー、作家の工藤広伸さんは、認知症を持つ母親を持つ当事者の一人です。親の認知症介護のために、東京と盛岡を往復する生活を送っています。介護に奮闘する中、アデッソのデジタル日めくり電波時計との出会いが自身の生活に大きく変化をもたらしたと語りました。

今回は、アデッソの経営企画室室長の長谷川大悟、R&Dマネージャーの長谷川賢悟が、工藤広伸さんをお迎えし「認知症×時計」をテーマとした対談を実現。介護体験やアデッソの商品との出会いについてお話してもらいました。

認知症介護に効果的なデジタル日めくり電波時計

長谷川大悟(以下、大悟):2021年6月号の『家電批評』で、工藤さんがアデッソのデジタル日めくり電波時計を紹介していただいたページを発見しまして。そのことがきっかけで、工藤さんにご連絡させていただきました。アデッソの商品はどこで見つけてくださったんですか?

工藤:ホームページだったと思います。母親もですが一般的に要介護の認知症の人は、曜日が大切なんですね。例えば、月曜日にデイサービスに行って、金曜日はヘルパーさんの訪問があって……とスケジュールが曜日で区切られています。アデッソの商品は曜日が大きく表示されていますし、ちゃんと介護のことも考えて開発されたのだと感心しました。他ブランドの電波時計と比べて値段が安いのもいいですよね。

長谷川賢悟(以下、賢悟):私たち兄弟なんですけど、当時、祖母がデイサービスや老人ホームに通うようになったんですね。工藤さんがおっしゃる通り、スケジュールを日にちではなく曜日で管理していたので、曜日が大きく表示された時計があったらいいなと思っていました。これが開発に至った経緯になります。

大悟:とはいえ、デジタル日めくり電波時計を開発した当初は、介護や認知症を前提としていませんでした。amazonで認知症患者の介護者からのレビューをいただくようになり、そういった人たちに喜ばれると気付かされました。

賢悟:今ではレビュー2,000件以上もいただいているのですが、ここまで商品を広めてくださったのは工藤さんの発信ありきなので、ありがたいですね。

実際に認知症患者が身近にいる人が言葉にしてくださると、すごく心に刺さります。僕も祖母の経験がなかったら、この商品は作れなかったと思うので。工藤さんの記事は、認知症の介護に携わる人たちの拠り所になっていると思います。

工藤:10年ほど僕のブログで記事を書いているんですけど、本当にこの商品を使ってほしいという気持ちがずっとありますね。

お薬カレンダー×デジタル電波時計


写真:40歳からの遠距離介護「薬の飲み忘れを防ぐ『お薬カレンダー』の最強の使い方」

工藤:ブログ記事ではたくさんの認知症介護の便利グッズを紹介してきましたが、その中でもデジタル電波時計がとても便利でして。お薬カレンダーの横にデジタル電波時計を掛けておくだけなのですが、これで薬の飲み忘れが防止できます。

大悟:我々もお薬カレンダーとデジタル電波時計をセットで販売しようとある文房具会社に提案したのですが、開発コストがかかってしまうみたいでまだ実現できていません……。

工藤:お薬カレンダー自体が100円程度で購入できるので、自分で作ってしまった方が安いと考える人は多そうですよね。

賢悟なので、例えばお昼のお薬だったら、昼間専用のポケットのみ開けられたり、そこだけが光ったりなど、プラスワン機能のアイデアも考えたのですが、ハイテクだとどうしても高価になってしまうんですよね。

工藤:以前、ロボットの薬の飲み忘れのモニターをしたことがあるのですが、サブスクで毎月1万円は支払わなければならないみたいです。薬の飲み過ぎを防止するためのロック機能やお薬を飲んだらメールで送られるアナウンス機能など、ハイテクな機能が搭載されていたのですが、そもそも買い手はそこまでを求めているかという問題もありますよね。

 

大悟:お客さんにレビューで紹介していただいたもう一つの使い方として、時計に文字を書いたシールを貼って、日にちや曜日がわかるようにする方法もあります。こちらの商品でいうと、上が日付、真ん中が曜日、下が時間になっています。

それぞれの段の両側、つまりプラスチックのスペースに「今日は」「です」と書かれたシールを貼ることで「今日は◯時◯分です」「今日は◯曜日です」のように、張り紙代わりとして使えます。

工藤:全く同じことをやりました。これで「今日はいつか」という裏のメッセージに気づけるんですよね。

大悟:日付がわからない人向けに商品を開発するとなれば、プラスチックのスペースを増やして、文字を印刷するのもいいかもしれませんね。もしくは、ホワイトボードのようなもので時計を囲い、手書きできるような仕様にしてしまうとか。

テクノロジーを活かした介護


写真:工藤広伸さん

賢悟:ここからは認知症にみられる症状についても話したいと思います。私の祖母は午前と午後を間違えて認識してしまって、夕方なのに暗いとパニックになることがありました。工藤さんはこのような経験をどう解決していますか?

工藤:認知症に昼夜逆転の症状はよくみられますよね。今が午前なのか、午後なのかを知らせるために、スマートスピーカーも利用しています。夜7時になると「今は夜の7時です。夜です」と自動で話してくれるので、字が読めない人でも使いやすいのかなと。

あとは僕は東京に住んでいるので、盛岡にいる母親の世話をするためにスマートリモコンも利用しています。例えば、今日は母親が16時頃にデイサービスから帰ってくるので、その時間に合わせてエアコンをつけたり。カメラで様子が見られるので、何かあった時はカメラに話しかければすぐに対応できます。

賢悟:将来的にアデッソでもリモート機能を搭載したいですね。ただ、突き詰めていくほど価格も上がっていくので、そこのジレンマも悩みどころですね。

工藤:買える価格帯でなければ意味がないですよね。ただ、僕の母親の場合、今まではカレンダーに予定を書くことができたのですが、認知症を発症して11年目には難しくなってしまって。難聴の方もいるので全ての高齢者が当てはまるわけではありませんが、音声の方がわかりやすい人にとっては、スマートスピーカーやスマートリモコンの必要性が高まっているのではないでしょうか。

時計があらゆる行動の起点となる

大悟:認知症介護において、今後解決してほしいという点はありますか?

工藤:難しいですね。介護する中で日々問題が出てくるので。その度にamazonやホームセンターで商品を探しています。デジタルに慣れていない人にとっては、アナログからデジタルに変えたとしてもうまく活用できない場合もあるので、人によって合う商品は異なるのではないでしょうか。何より、今日が何日なのか、何曜日なのかを知ることが自立につながる大切なことだと思います。

賢悟:わからないことを自分でわかるようにすると。

工藤:時計を見てデイサービスの準備をして、さらにゴミ捨てにも行って。認知機能を改善するために関連していることであり、時計があらゆる行動の起点になっているのです。

大悟:認知症や介護は自分に関係ないものだと通り過ぎてしまう方が多いのですが、実は身近な存在です。今後誰もが認知症に関わる可能性があるという当事者性を見出してもらうため、私たちも引き続き何ができるか考えていきたいですね。

賢悟:こうした方がいいなどのご意見ありましたら、フィードバックやレビューをお送りいただけますと幸いです!今回はお忙しい中来ていただき、ありがとうございました。

工藤:こちらこそ、ありがとうございました。